投稿論文 ”Atmospheric density estimation in very low Earth orbit based on nanosatellite measurement data using machine learning” が Aerospace science and technology にアクセプトされました.本論文では,超小型衛星が地球超低軌道(高度100—400 km)にて取得したGNSS測位データから,軌道解析と機械学習を用いて大気密度を推定する手法を構築しました.また実際にフライトした超小型衛星EGGのデータに手法を適用し,EGGの経験した大気密度の推定を行いました.
論文の概要
地球超低軌道は今後の人工衛星ミッションにおけるフロンティアです.従来地球を観測する人工衛星が運用されてきたのは高度500 km—数万km の領域です.ISS(国際宇宙ステーション)が滞在する高度400 kmより低高度の,地球超低軌道を利用できれば,観測の高精度化などが期待できます.人工衛星の誘導制御,寿命予測のためには,大気密度が正確にわかる必要がありますが,この高度帯における観測データが限られており,既存の大気モデルでは大気密度の正確な予測,再現ができていません.本研究ではこの領域における新たな大気密度推定手法として EGGという超小型衛星が実測した間欠的なGNSS測位データから機械学習的なアプローチにより大気密度を推定する手法を構築しました.
図1に手法の概念図を示しています.本手法ではまず,超小型衛星の取得した間欠的なGNSSデータからガウス過程回帰により軌道の再構築を行います.その軌道(以下,再構築軌道)を軌道解析により再現する過程で、大気モデル(NRLMSISE-00)により計算した大気密度を補正します.軌道解析の入力のうち,間欠的なGNSSデータからは求まらない速度ベクトルと,推定対象である大気密度の補正係数を,パラメータ探索手法であるベイズ最適化とグリッドサーチにより様々に試行し,再構築軌道を再現できる値の組を求めます.ベイズ最適化によりざっくりと最適と思われる値を求め,グリッドサーチによりその周辺をより詳細に,網羅的に試行します.
図 1 大気密度推定手法の概念図 [1] |
構築した手法をEGGの実測データに適用した結果を図2に示しています.これはEGGのGNSSデータのうち,高度250—220 km のものを対象に軌道再構築をし,軌道解析の入力のグリッドサーチを行った結果です.横軸の値が大気モデルの補正係数であり,モデルの値を何倍にして軌道解析で用いたかを表しています.縦軸は再構築軌道からのズレの時間平均を表しています.補正係数=0.5のとき軌道のズレが最小になっていることから,EGGがこの高度帯で経験した大気密度は,大気モデルの値のおよそ半分だったのではないか,という推定結果が得られました.
図 2 高度250—220 kmの再構築軌道に対するグリッドサーチの結果 [1] |
あとがき
この論文は私にとって最初のジャーナル論文です.様々な困難がありましたが,出版まで漕ぎつけることができ,大変うれしく思っております.指導教員である高橋先生から日頃よりご指導いただき,研究室の先生方,先輩方,JAXAや他大学の先生方にもお支えいただきました.感謝申し上げます.
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- T. Sakai and Y. Takahashi, “Atmospheric density estimation in very low Earth orbit based on nanosatellite measurement data using machine learning”, Aerospace Science and Technology, Volume 153, 2024.
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Link: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1270963824005492
T.Sakai 2024/08/21
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