2023/12/01

ISAS アーク風洞実験(令和5年)

 アーク風洞実験

    今年もこの時期がやってきました.当研究室ではJAXAが保有するアーク風洞を利用した実験を年に1回実施しています.アーク風洞は高温のプラズマ気流を生成することができるので,宇宙機が大気圏に突入する際の厳しい加熱環境を再現することができます.このプラズマによって通信途絶現象が生じるのですが,機体表面からガスを噴射することで通信できるようになるか,というのが実験のテーマです.今年の実験期間は10/16 ~ 10/20の1週間でした.過去2年分の試験の様子は当ブログで紹介しています.(2020年2021年)アーク風洞は秋の季語といってもいいかも知れません.

    

実験キャンペーン

    1週間の実験期間のうち,1日目と2日目は準備に充てます.風洞でガス噴射を行うために実験模型とガスボンベを接続したり,ガス噴射の様子を撮影するためにいろいろセッティングしたりと何かと時間がかかります.
    昨年からの取り組みとして,シュリーレン撮影があります.シュリーレン法とは,空気の密度によって光の屈折率が変化することを利用して,空間の密度勾配を取得する実験手法です.この方法は古くから風洞実験で実施されているものの,アーク風洞での前例は多くありません.そのためいろいろと手探りで進めている最中です.今年はより強力な光源を用意して鮮明な画像を得ることが狙いのひとつでした.写真にもあるように,明るい青色LEDを光源として使用しています.直接見るとクラッとくるぐらいの明るさです.




実験結果

    数値解析の結果(奥)とシュリーレン撮影の結果(手前)を載せます.ガス噴射部の近傍に注目した図で,どちらも噴射部の直上に密度勾配の大きい領域が分布していることが分かります.その形状もおおよそ一致することが確認できました.光源のアップグレードと光学機器の調整に慣れてきたおかげで,昨年よりも広い視野で高品質の画像を撮影することができました.これから通信試験の結果も含めて実験結果の分析を進めていきます.それではまた来年.



T. Miyashita, 2023/12/1

2023/10/16

Boeing Externship Program 2023 (awarded Champions title)

This is Liu. I am glad to share my experience in joining Boeing Japan University Externship. It contains lectures about sustainable aviation, supplier management, global service, technologies, etc. Students are asked to present their solutions to a problem that current aviation faces. My team proposes an algae-sustainable aviation fuel (SAF) solution to tackle the problem of carbon dioxide emission. Our proposal won the on-campus primary competition and joined the Boeing University Summer Seminar 2023. As a result, we won the Boeing University Summer Seminar 2023 Champions title (best presentation/proposal).

To talk about aviation's carbon emissions, it accounts for 2.5% of global emissions. Airports are a major cause of emissions, and airports in Japan emit 3.87 million tons of CO2 annually. People are trying to use hydrogen to tackle the problem. However, is using hydrogen as aviation propulsion fuel truly zero emission? More than 95% of hydrogen production is grey hydrogen, that is, CO2, as a by-product of hydrogen.

Thus, we introduce algae to absorb CO2 emissions. Algae can produce fuels and other products efficiently. This is how our solution works. We like to collect CO2 in the hydrogen factory and use it to cultivate algae and use algae to produce SAF for the aircraft. It is a win-win for hydrogen aircraft and original aircraft. We also plan to grow algae near the airport to absorb the airport emissions and support algae SAF production.

There are some difficulties, like technical problems in algae to SAF transformation. Nevertheless, if we cooperate with other companies, the problem will be solved quickly, and the cost can be lowered. Overall, algae is a profitable way to reach zero emissions.

When constructing the proposal, it is necessary to consider both feasibility and cost. The order of the presentation is also essential to catch the audience’s eyes. Attending this event strengthened my presentation, creative thinking, leadership, and teamwork skills. I appreciate having this chance to win the title.


Liu Mu-An, 2023/10/9 

2023/07/20

RERA-2 & RERA-3 放球が行われました

 RERAプロジェクト

当研究室では昨年度よりゴム気球を用いた大気突入カプセル自由飛行実験 RERA (Rubber balloon experiment for reentry capsule with thin-type aeroshell) を実施しています.パラシュートを必要としない薄殻型の新形状カプセルの自由飛行時の姿勢安定性を明らかにするため,高高度から模型を投下して姿勢データを取得します.昨年の実験の様子はこちらで報告しています.今年のRERAでは重心位置と慣性モーメントを変更した2機の放球を実施しました.

RERA-2 https://www.isas.jaxa.jp/topics/003452.html  

RERA-3 https://www.isas.jaxa.jp/topics/003453.html


 気球実験

実験は北海道の大樹町で実施しました.同じ道内とはいえ,北大からは車で4時間以上かかる場所です.

気球実験は気象条件が鍵なので風向きや天候が悪いとそれだけ実験期間が延びてしまいます.ですが今年も気象条件が素晴らしく良かったため,7月8日にRERA-2,9日にRERA-3と連日の放球になりました.放球の日は午前3時ころにホテル発,日の出とともに作業開始というような動きでした.

実験場に到着してから,電源を入れて最後の動作テストを実施しました.搭載センサーの値とカメラの画像がしっかり受信できたことを確認していよいよ放球です.天気は晴れ,地上もほぼ無風とこれ以上ない気象条件でした.特にRERA-3の時は風も雲も少なく,気球にぶら下がったカプセルが高度数kmまでまっすぐ上昇していく様子が地上からも見えました.

2つのカプセルは地上にデータを送りながら順調に高度を上げていき,切り離し高度に達しました.実はこの実験はここからが本番なのです.といっても見守ることしかできませんが...

気球から切り離されたカプセルは風に流されながら数十分間の自由飛行に移ります.この間もカプセルはデータを送信し続け,放球からおよそ2時間後に大樹町沖に着水しました.これで試験終了となります.日頃の行いがよかったのか,天候も味方して今年の実験も最短スケジュールで駆け抜けました.

今回とれた飛行データは昨年の結果と合わせて姿勢不安定性の議論が行われます.それについてもいずれ当ブログで紹介していきます!


朝日に照らされるRERA-2


青空に昇っていくRERA-3


T. Miyashita, 2023/7/20


2023/07/19

EUCASS国際学会

EUCASS

 EUCASS(2023/07/10-14)に現地スイスで参加しました.今回はブログで何度か紹介している自由振動試験についての結果をまとめ,発表しました.


空力不安定性と自由振動試験

空力不安定性は,カプセルが自由飛行時に振動・回転してしまう現象であり,効率的な空力減速を妨げることから低減化することが求められています.そこで,JAXAの遷音速風洞を用いて振動試験を実施し,カプセル形状を変更した際に低減化できるのか調べていました.

マッハ1.3の流れ場内で,一定の振幅で振動を続けるリミットサイクル現象が確認されました.これははやぶさカプセルと同様の傾向です.


Base model(左)と Ball model(右)

また,上記の図のように背面を膨らませることで,同程度の慣性モーメントに関わらず振幅が抑制されるという結果を得ることが出来ました.

ただ,この抑制の詳細なメカニズムはまだ不明なため,今度自由振動解析・強制振動解析により詳細を調べていければと思っています.


私たちの研究は主にピッチ・ヨー方向に振動を見ていますが,同じセッションにロケットのロールに関する同様の試験を実施している方がおり,少しお話しました.英語での会話はまだまだスムーズにできませんが,なんとか情報交換できたかと思います.


その他

2023年1月のスイスのビッグマック指数は世界1位で942円(日本は410円).ビッグマックは日本の2倍以上の値段ということで,とても物価が高いことがわかります.

そのため,市内の乗り物が乗り放題になるトラベルパスをホテルでもらえたのは,とてもたすかりました.

パンやお肉はとてもおいしく口に合ってよかったです.

ホテルでの朝食と筆者の指(左上)

H. Takasawa, 2023/07/19

オーストラリア気球実験への参加

 オーストラリア気球実験

豪州気球実験(2023/05/11)に見学者として参加してきました.


本試験の目的は,「はやぶさ型カプセルの遷音速・低速域における飛行安定性評価」と「パラシュートの性能検証」です.そのため,直径60cmのカプセルを高度約40kmから投下し,自由飛行させました.約2分の自由飛行後にパラシュートを展開,軟着陸と試験を成功させました.

常に無線でデータを送っているものの,データの送信量には限界があります.そのため,着陸したカプセルを回収し,データを吸い出すという流れになります.すなわち,着陸時やパラシュート開傘時の衝撃に耐えることのできる設計が必要となります.

私たちの研究室で実施している気球実験RERAとは異なり,陸地に着地するため,大量のデータを取得することが可能となっています.

大気球試験では,放球前日の夜中から作業を開始し,早朝に放球,夕方に大気球が着陸というとても長いスケジュールになっています.

私は一見学者でしたが,これまで積み上げてきた過程を少し知っていたため,大変な中無事に成功してよかったです.

空高く上がった大気球(中央)と筆者の指(左上)

関連HP

オーストラリアでの大気球実験記
https://www.isas.jaxa.jp/gallery/feature/isas/isas_20230605.html

オーストラリア気球実験B23-02の実施終了について 
https://www.isas.jaxa.jp/topics/003396.html



その他

今回の気球実験は,3-5月の期間で実施されていました.3月の最高気温は30度以上であり,5月の最低気温は0度と実験期間内の寒暖差がとても激しいです.

最初の方に現地入りした方々は半袖しか持ってきておらず,苦労していました.
実験期間が読めない場合はその辺も気をつけないと,と思いました.


H. Takasawa, 2023/07/19

2023/06/28

RERA-2&-3

RERA2023
今年度もゴム気球を用いた大気突入カプセル自由飛行実験 Rera (Rubber balloon experiment for reentry capsule with thin-type aeroshell) を予定しています。昨年度のRERA-1では、成層圏投下による自由フライト実験によって深宇宙サンプルリターンカプセルの姿勢不安定性を調べました。直径80 cmもののフルスケール形状のカプセルフライト実験は、気球を使ってならではのもので、貴重なフライトデータ(座標や加速度、画像など)が取得されました。詳細の一部はJAXA-RRにて報告しています。RERA-1カプセルの重心や慣性モーメントを採用した場合、姿勢は安定的であることが示されました。これはカプセル開発上大事な知見であるのですが、動的な姿勢不安定性現象の再現には至っていません。

RERA-1放球時の様子

自由フライト実験を用いたパラメータ研究
大気突入カプセルは重心をより後ろ側においた方が姿勢不安定化しやすいと考えられています。加えて姿勢安定性に関するパラメータとして”回転しづらさ”を示す慣性モーメントも重要です。したがって今年度の実験では、RERA-1カプセルに比べて、重心を後ろ側におき且つ慣性モーメントを高くすることで姿勢不安定化を意図するRERA-2と、重心位置をできるだけ維持し慣性モーメントを高くするRERA-3を用意し、フライト中の姿勢運動の違いを明らかにします。つまり、カプセルの姿勢不安定挙動と慣性モーメントの影響を調べることになります。
一度の実験期間中に2個の放球を目指すことになり、これによってフライト実験とパラメータ研究という本来相反する性質の実験を両立するプラットフォーム構築も目標です。

RERA-2(左)とRERA-3(右)
(非金属版(黒バンド)を機体背後に接着し重心等の質量特性を変更しています)

今年も風任せ
RERA-2&-3実験の放球を目指してカプセル開発や各種試験など担当学生が尽力してくれています。ただ気球放球条件には高層風の振る舞いが非常に大きな影響を与えるらしく、RERA実験のGo/NoGoもそれに従います。今年も良い風が吹くことを祈っています。

Y. Takahashi, 2023/6/28

2023/03/14

Publication Experience in Aerospace Science and Technology

Recently, we published a manuscript for our research on the fluid-structure interaction of inflatable membrane aeroshell in the renowned journal: Aerospace Science and Technology. This work developed a numerical framework for the fluid-structure interaction of flexible reentry vehicles validated by the transonic wind tunnel experiment focusing on the structural deformation and oscillatory behavior in the subsonic flow regime.

Research Summary

Inflatable aeroshells experience significant aerodynamic loads during atmospheric entry. The flexible membrane deforms by the aerodynamic forces, and such deformation changes the flow field, which can change the aerodynamic characteristics and increase the deformation even further. So, complex fluid-structure interaction problems appear during atmospheric entry. Thus, the aerodynamic characteristics during atmospheric entry must be adequately evaluated through fluid-structure coupled modelling for the reliable performance prediction of such vehiclesBased on this newly established model, aerodynamic behavior and coupled fluid-structural characteristics are systematically examined under subsonic conditions and verified by experimental wind tunnel investigation, with particular attention given to the transient oscillatory behavior of the membrane aeroshell that was found in the free flight test.


Fig. 1:  Experimental model 
 

Fig.2: Instantaneous velocity distribution

The results revealed that the decelerated flow generated a high-pressure region in the front and a low-pressure region in the rear of the aeroshell. The separated flow produced a vortex ring behind the aeroshell, creating a shear layer in the wake region. Oscillatory swing motion, caused by force from the fluid, was reproduced by effectively setting Young’s modulus of the membrane material. The oscillation frequency of the swing motion was the same as the lift and pitching moment oscillation frequency. This indicated that the swing motion also affected the aerodynamics of the vehicle.

Thoughts 

Aerospace Science and Technology is one of the most prestigious journals in aerospace engineering. The hardest part of publishing in this journal was preparing the response of the reviewers. In this case, the experts provided critical questions we had to respond to. There were several sources of error in the wind tunnel experiment, and it took an effort to find out and sensibly portray the limitations. Without the help of the co-authors, it would not be possible. Writing and publishing a manuscript is challenging; however, I enjoyed the whole process. It made me feel worthy and satisfied and enhanced my writing skills.

Manuscript

The published manuscript can be accessed at the following URL:

Saha, SK, Tobari, J., Takahashi, Y., Oshima, N., Moriyoshi, T., Yamada, K., & Shibata, R. (2023). Fluid-Structure Interaction Characteristics of Inflatable Reentry Aeroshell at Subsonic Speed. Aerospace Science and Technology, 108112.

Sanjoy Kumar Saha
March 10, 2023

ISAS アーク風洞実験(令和5年)

  アーク風洞実験      今年もこの時期がやってきました.当研究室ではJAXAが保有するアーク風洞を利用した実験を年に1回実施しています.アーク風洞は高温のプラズマ気流を生成することができるので,宇宙機が大気圏に突入する際の厳しい加熱環境を再現することができます.このプラズマ...