小型成層圏気球投下による剛体・柔軟エアロシェルの自由飛行実験
当研究室において2022年より継続して行っている気球実験 RERA を今年も行います。 今回は1回の実験キャンペーン中に、実験機の特性が異なる2つの自由飛行実験を目指しています。それは空気力を受けても自身の形状が変化しない「硬い(剛体)エアロシェル」と、空気力を受けたときに形状が変化する「柔らかい(柔軟)エアロシェル」です。
低弾道係数型の空力減速技術
宇宙輸送工学の大気突入分野、つまり宇宙から帰って来る方の輸送技術、において近年のトレンドのひとつは、軽量で大面積のエアロシェルを用いた低弾道係数型空力減速技術であると言えます。軽量で大きな面積、ということは面積の分だけ空気力を増加させ、しかも自身も軽いので、高い空気力によって効率的に大気突入速度を減じることが可能です。このような効果は軌道力学におけるテクニカルタームで、低い弾道係数、というので、低弾道係数型と修飾されます。
この低弾道係数型飛行を実現する技術が、剛体エアロシェルと柔軟エアロシェルです。いずれも薄い殻を利用することで軽量と大面積を両立させていますが、大きな違いは構成する材料と言えるかもしれません。剛体は主に金属を利用し、柔軟は織物を利用します。その違いが剛体・柔軟エアロシェルとして現れます。
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RERA-5 (剛体エアロシェル実験機) |
剛体エアロシェルと柔軟エアロシェルの空力動的姿勢不安定
このブログあるいは学会発表あるいはどこかのSNSなどで、たびたび述べているような気もしますが、航空機や宇宙機の姿勢安定は原則として空気力によってなされるのが特徴です。それ故、空気力による姿勢安定が取れない危険な事態に陥ることも度々あります。姿勢安定はそれ自体大きなトピックでもありますが、宇宙機である剛体・柔軟エアロシェルも例に漏れず姿勢の安定不安定は大きな関心ごとです。一方で、その挙動はまだわかってないことが多いのです。
剛体エアロシェルにおける姿勢不安定はどのように生じるのか、柔軟エアロシェルはどうなのか、両者の姿勢不安定における共通項と相違項は何なのか?という問いに答えることは、安全な大気突入技術の確保として重要なことになります。
RERA-5&RERA-MAW-1
剛体・柔軟エアロシェルにおける空力姿勢不安定を自由飛行環境によって再現し、そのメカニズム解明のデータ取得を試みる実験が、「ゴム気球を用いた剛体・柔軟エアロシェルの自由飛行実験(RERA-5&RERA-MAW-1)」です。RERA-5が剛体エアロシェル実験機で、これは2022年度から継続して行っている実験の五号機、RERA-MAW-1が柔軟エアロシェル実験機の一号機です。
いずれも実験シークエンスは同様で、北海道大樹町からカプセルを吊り下げたゴム気球を放球、高度25km付近の成層圏まで上昇ののちに実験機を投下し、自由飛行中の姿勢データなどを取得する内容です。
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RERAの実験シークエンス |
まとめ
例年のことではありますが、気球実験は気象条件や高層風などに強く影響されるため、実験機を準備したとしても必ず打ち上がるとは限りません。ただ、万全の準備を施して、良い風を待つ、というのは重要な姿勢であるような気もします。RERA-1からこれまで、幸いにして放球には至っていました。今年もそのようになれば良いと思います。
Y. Takahashi, 2025/06/09
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