論文の概要
本研究室で継続的に実施しているエアフィルム効果による通信ブラックアウトの低減化研究の成果が,Communication blackout and aerodynamic heating reduction via air film for hypersonic spacecraftとしてJournal of Applied Physicsから出版されました.本論文では1970年代に実施された再突入ミッション機であるRAM Cを対象に,ガス噴射によって通信ブラックアウトと空力加熱を同時に低減できる可能性について示しました.
宇宙機が大気圏に突入する際,その速度はマッハ25を超えることもあります.この超高速によって,機体の前には強い衝撃波が発生し,周囲の空気は高温になります.この高温が,宇宙機にとって重大な2つの問題を引き起こします.
- 通信ブラックアウト:高温プラズマが電磁波を遮断し,地上との通信が途絶えてしまう現象です.再突入中の機体状態の把握や誘導に必須な通信ができなくなるのは大きな問題です.
- 空力加熱:高温プラズマが機体表面付近に分布することで,機体が熱せられる現象です.機体や搭載機器を保護するために,熱防御システム(TPS)が必要になります.
- 熱を防御:エアフィルムが断熱材のように作用し,高温プラズマ気流からの熱を伝えにくくします.
- 通信の改善:噴射されたガスは周囲のプラズマより低温で,電子の数が少ない低プラズマ領域です.この領域を「通信用の窓」として使うことで,電波が通りやすくなる,つまり通信ブラックアウトを軽減できる可能性があります.
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ガス噴射による空力加熱と通信ブラックアウトの同時低減のメカニズム.機体前方で発生する強い加熱とプラズマ気流を機体から遠ざけることで低減化を図ります. |
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宇宙機からのガス噴射によるエアフィルムの形成.機体上側にモヤモヤとしたガス層が,後方の広い範囲まで及んでいることがわかります.この空間内部を電磁波は通過可能であり,また機体表面の加熱率が低下している様子が見られます. |
あとがき
この手法の検討は2020年頃から始めて,風洞実験での効果実証からいよいよ再突入環境での有効性を示すまでに至りました.過去に出した論文がきっかけになったかはわかりませんが,ブラックアウト関連の研究成果を最近よく見るような気がします.本研究もその一助となればと願うばかりです.
論文
本論文は以下からアクセスできます.こちらはオープンアクセスなのでどなたでも読むことができます.
Takashi Miyashita, Yuji Sugihara, and Yusuke Takahashi, “Communication blackout and aerodynamic heating reduction via air film for hypersonic spacecraft”, Journal of Applied Physics, 7 May 2025; 137 (17): 174701. https://doi.org/10.1063/5.0250348
T.Miyashita