以前からこちらのブログでも紹介していた,エアフィルム効果による通信ブラックアウトの低減に関する実験(リンク:https://highenth.blogspot.com/2023/12/isas-5.html )の成果が, Mitigation of Reentry Blackout via Gas Injection in Arc-heated Facility としてJournal of Physics D: Applied Physicsにアクセプトされました.本論文では,ガス噴射による通信ブラックアウト低減効果について,数値解析と風洞実験を活用して議論しています.
論文の概要
通信ブラックアウトは大気圏に突入する際に,カプセルと地上局との通信が途絶する現象のことで,カプセルの観測データや位置情報が一時的にモニターできなくなります.これは高速で飛行するカプセル前方に生じる強い衝撃波によって生成したプラズマによって通信電磁波が減衰・遮蔽されることによって生じます.通信ブラックアウトを低減することは宇宙輸送技術の安全性や宇宙環境利用ミッションの柔軟性向上の観点から重要です.
大気圏再突入時に生じる別の課題として,空力加熱現象があります.衝撃波によって高温になった周辺気体のため宇宙機が加熱され,内部の機器や採取したサンプルに深刻なダメージが及ぶ恐れがあります.
図 1:大気突入時の宇宙機に生じる通信ブラックアウト現象 [1] |
ここで対象としているガス噴射によるエアフィルムの形成という手法は,この2つの課題に同時に対処できる可能性があります.噴射したガスが宇宙機の表面に薄く広く分布することで,その内部が電磁波の伝播経路の役割を果たし,通信を可能にします.また,高温プラズマガスと宇宙機との間で断熱層として作用し,機体への熱の侵入を防ぎます.
本論文では,おもに通信ブラックアウト低減効果について風洞実験と数値解析によって示しています.アーク加熱風洞内部で行なった通信試験および対応する数値解析により,噴射したガスがエアフィルム層を形成すること,その内部はプラズマが少なく電磁波が伝播できること,実際にガス噴射によって通信が改善されることが明らかになりました.数値解析によって加熱率の低減効果も示唆されたため,今後は空力加熱への対策としても研究を展開するのも面白いかもしれません.
図 2:ガス噴射による低プラズマ領域の形成 [1] |
今回で私が論文を出版したのは2回目です.数値解析だけの1回目と違って今回は実験結果も含まれるので,この低減手法に関する議論を深化させることができたかと思います.実験と数値解析は研究の両輪であり,組み合わせることで説得力のある研究となるのだと感じました.両方やる分たくさん失敗もしましたが,学ぶことも多くありました.
論文
本論文は以下から確認できます.
- T. Miyashita, Y. Sugihara, Y. Takahashi, Y. Nagata, and H. Kihara, “Mitigation of reentry blackout via gas injection in arc-heating facility”, Journal of Physics D: Applied Physics, 2024. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6463/ad4718#sidr-main
T. Miyashita