2024/05/23

エアフィルム効果によるブラックアウト低減実験の論文

以前からこちらのブログでも紹介していた,エアフィルム効果による通信ブラックアウトの低減に関する実験(リンク:https://highenth.blogspot.com/2023/12/isas-5.html )の成果が, Mitigation of Reentry Blackout via Gas Injection in Arc-heated Facility としてJournal of Physics D: Applied Physicsにアクセプトされました.本論文では,ガス噴射による通信ブラックアウト低減効果について,数値解析と風洞実験を活用して議論しています.

論文の概要

通信ブラックアウトは大気圏に突入する際に,カプセルと地上局との通信が途絶する現象のことで,カプセルの観測データや位置情報が一時的にモニターできなくなります.これは高速で飛行するカプセル前方に生じる強い衝撃波によって生成したプラズマによって通信電磁波が減衰・遮蔽されることによって生じます.通信ブラックアウトを低減することは宇宙輸送技術の安全性や宇宙環境利用ミッションの柔軟性向上の観点から重要です.
  大気圏再突入時に生じる別の課題として,空力加熱現象があります.衝撃波によって高温になった周辺気体のため宇宙機が加熱され,内部の機器や採取したサンプルに深刻なダメージが及ぶ恐れがあります.

図 1:大気突入時の宇宙機に生じる通信ブラックアウト現象 [1]

  ここで対象としているガス噴射によるエアフィルムの形成という手法は,この2つの課題に同時に対処できる可能性があります.噴射したガスが宇宙機の表面に薄く広く分布することで,その内部が電磁波の伝播経路の役割を果たし,通信を可能にします.また,高温プラズマガスと宇宙機との間で断熱層として作用し,機体への熱の侵入を防ぎます.
  本論文では,おもに通信ブラックアウト低減効果について風洞実験と数値解析によって示しています.アーク加熱風洞内部で行なった通信試験および対応する数値解析により,噴射したガスがエアフィルム層を形成すること,その内部はプラズマが少なく電磁波が伝播できること,実際にガス噴射によって通信が改善されることが明らかになりました.数値解析によって加熱率の低減効果も示唆されたため,今後は空力加熱への対策としても研究を展開するのも面白いかもしれません.

図 2:ガス噴射による低プラズマ領域の形成 [1]
あとがき
 今回で私が論文を出版したのは2回目です.数値解析だけの1回目と違って今回は実験結果も含まれるので,この低減手法に関する議論を深化させることができたかと思います.実験と数値解析は研究の両輪であり,組み合わせることで説得力のある研究となるのだと感じました.両方やる分たくさん失敗もしましたが,学ぶことも多くありました.

論文

 本論文は以下から確認できます.

  1. T. Miyashita, Y. Sugihara, Y. Takahashi, Y. Nagata, and H. Kihara, “Mitigation of reentry blackout via gas injection in arc-heating facility”, Journal of Physics D: Applied Physics, 2024. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6463/ad4718#sidr-main

T. Miyashita



2024/05/17

オープンCAEシンポジウム2023優秀学生講演賞受賞報告

こんにちは.修士2年の酒井智基です.
昨年(2023年)の12月7~9日に横浜にて開催されたオープンCAEシンポジウム2023に参加し,優秀学生発表として表彰いただきました.遅ればせながら,学会の参加&受賞報告をいたします.

・12/6 前日入り
オープンCAEシンポジウムは12/7に講習会,12/8,9にシンポジウムという日程でした.今回研究室からは私と計算流体B4の中道君で参加し,前日入りして中華街に行きました.会場と宿泊しているホテルの近所にあり,夕飯はこちらで食べました.

強そうな4人組
担々麵とチャーハンのセットがあったら,選ばないわけにはいきません.
大変おいしゅうございました.

・12/7 講習会
いくつか講座の選択肢があり,私と中道君はOpenModelica,PyVista,OpenRadiossに関する講座を受けました.日頃使っているシミュレーションプログラムとは全く違うものでしたが,条件設定スクリプトの書き方,OSSならではの利用の難しさなど,様々な知見を得ることができ,良い経験になったと思います.中道君の方が僕よりも何倍もプログラム等に詳しいので,隣でよく助けてもらいました.
ありがとう,中道君.

・12/8 シンポジウム1日目
シンポジウム初日は中道君の発表がありました.初めての学会発表とは思えないほど堂々と発表していて,感銘を受けました.(私の初発表の時はガチガチでした.)
発表する中道君

夕飯は発表お疲れ様会ということで,二人で 焼肉に行きました.お疲れ様,中道君.
これは牛タンです.開かずに焼くというのを初めて知りました.
大変おいしゅうございました.

・12/9 シンポジウム2日目
この日は私の発表がありました.4度目の学会発表でしたので流石に緊張せず,いつも通りにできたのではないかと思います.私の研究は最適化に関するものですが,同様に最適化に取り組んでいらっしゃる先生方から質問コメントをいただき,大変ありがたかったです.
撮影ありがとう,中道君.

シンポジウムの最後の表彰式にて,学生優秀発表として表彰していただきました.日ごろご指導いただいている高橋先生,先輩方のおかげです.感謝いたします.
大学で高橋先生にとっていただいた写真です.
寝起きだったので顔はご勘弁ください.

・最後に
オープンCAEシンポジウムはとても懐の広い学会でした.大学の先生方のみならず、様々なバックグラウンドをもつ方々が自由にシミュレーション結果を発表されていて,とても和気あいあいとしていました.このような場で発表できたこと,表彰いただいたことを大変うれしく思っております.

2024/05/14

薄殻エアロシェル型カプセルの静的安定性研究 in CEAS Space Journal

 投稿論文Static attitude stability of deep space sample return capsule with thin aeroshellCEAS Space Journalにアクセプトされました.本論文では,薄殻エアロシェル型カプセルの幅広い速度域における静的な安定性について,実験と解析の両面から評価しています.

 

Abstract

 将来的なサンプルリターンとして,土星圏を対象としたサンプルリターンが計画されています.これまでのはやぶさカプセル形状と異なり,より軽量かつ大きな投影断面積の薄殻エアロシェル型カプセルであれば,地球帰還時の熱にも耐えられると考えられています.一方,軽量化のためパラシュートがなく,十分に減速するためには適切な姿勢で飛行する必要があります.そこで,本論文では,カプセルが流れ場に対し迎角を持って停止した際の静的安定性や基本的な空力性能,地球突入時の軌道について議論しました.


1 薄殻エアロシェル型カプセル [1]

 はやぶさカプセルは再突入時の速度が12 km/sであり,このときの最大空力加熱は15 MW/m2程度です.一方,薄殻エアロシェル型カプセルは再突入時の速度が15 km/sとより高速であるものの,最大空力加熱は10 MW/m2以下でした.これは,軽量かつ大面積により密度の薄い高高度から減速できたためと考えられます.

 また,風洞試験と数値解析により迎角がついた際にカプセルに生じるモーメントが評価されました.これらの結果から,迎角変化を打ち消す方向に常にモーメントが生じること,すなわち静的に安定であることが確認されました.この静安定メカニズムとして,カプセル前面に生じる圧力差が主要因であることが解析結果から示唆されました.

2 静的安定メカニズム [1]

 

 投稿論文としての薄殻エアロシェル型カプセル関連はこれが初出になるため,これを元に次世代サンプルリターンカプセルについて発展させていければと思います.

その他

 ここでは,Mach 0.14 - 4.0を対象しており,様々な流れ場条件を用いています.解析では計算条件を入力すればよいですが,ここまで幅広い流れ場を作れる風洞はありません.そのため,3つの風洞を用いてこれらの成果を得ました.風洞が変わるとアタッチメントや適切なカプセル直径等々が変わるため大変ですが,様々な風洞を利用する良い機会となったため,とても勉強になりました.


本論文のURLは下記の通りです.

https://link.springer.com/article/10.1007/s12567-024-00551-1

[1] Takasawa, H., Fujii, T., Takahashi, Y. et al. Static attitude stability of deep space sample return capsule with thin aeroshell. CEAS Space J (2024).

 

H. Takasawa

2024/05/14

博士課程の過程(2024年度 STL研究室 卒業生)

 博士課程の卒業にあたり,「博士課程に進学するか否か迷っている方」「博士課程はどうだった?」「卒業後の進路は?」という点について,過去の自分自身が知りたそうなことを簡単に記載しておきます. 1. 博士課程に進学するか否か迷っている方へ  「人には人の博士課程があるので,様々な人に...