2026/07/07

RERA-MAW-2 相模原滞在記(6/15-19)

RERA-MAW-2

毎年、ゴム気球を用いた薄殻型カプセルの自由飛行試験RERA (Rubber balloon experiment for reentry capsule with thin-type aeroshell) を行っています。今回の試験RERA-MAW-2では、「姿勢不安定化する質量特性で飛行実験を実施して、動的不安定機構を明らかにすること」を目指して、カプセルの重心を後方に設置し、より不安定化しやすい条件下での試験を大樹町で行う予定です。実験の準備はJAXA相模原キャンパスで行われており、私は研究補員として、6月15日から19日の1週間の間、JAXA相模原キャンパスに滞在しました。
JAXA相模原キャンパス(夜で見えづらくてごめんなさい)

実際の作業内容
まず、初日は重心位置と慣性モーメントの計測を行いました。FM1, FM2の2機の計測を行いました。重心位置は一点吊り法、慣性モーメント二点吊り法でそれぞれデータの整理を行いました。得られたデータについて、Pythonを用いてデータの整理を行いました。
重心位置計測

慣性モーメントの計測

火曜日以降はデータの整理と工業用ミシンを用いてエアロシェルの裁縫を行いました。ミシンの調子が悪く、かなり時間がかかりました。布は防火服などでも使われるザイロンという素材であり、かなり固く縫いにくかったです。エアロシェルの各パーツはミシンで縫い、最後の細かい部分は手縫いで進めました。
工業用ミシンを用いた裁縫の様子

最終日はエアロシェルが完成して、FM機体への接着を行いました。何回か接着して外したりしましたが、最終的には無事に接着することができました。
エアロシェルとFM(フライトモデル)の接着

ロッジでの生活
滞在中は、キャンパス内にある宿泊ロッジを利用しました。設備が整っていてとても過ごしやすかったです。 ロッジにはオーストラリアのメルボルン大学からインターンシップで来ている留学生も滞在しており、交流を深めながら楽しく過ごしました。食事は自炊が基本だったので、近くのスーパーまで買い出しに行って料理をしていました。
ロッジ付近のBigA (スーパー) での買い出し

おわりに
1週間という短い滞在でしたが、たくさんの作業をさせてもらい、良い経験ができました。大樹町での実験も頑張りたいと思います。余談ですが、関東は梅雨真っ只中で雨が多くすごく蒸し暑く、少し札幌が恋しくなりました。

H.Hashimoto, 2026/07/04

2026/02/10

第34回スペース・エンジニアリング・コンファレンスにて最優秀ポスター賞を受賞しました

  2025年12月19-20日にて開催された日本機械学会第34回スペース・エンジニアリング・コンファレンス [SEC’25]にて,「群知能アルゴリズムを⽤いた超⼩型衛星GNSSデータに基づく地球超低軌道の大気密度推定」という題名でポスター発表を行いました.そして,最優秀ポスター賞を受賞いたしました.

学会まで
 
とある日に,学会でのポスター発表に出ることとなり,ポスターを作成することになりました.
 私は学部生であり,当時は学会の経験が全くなかったため,学会でのポスター発表というものをあまり知りませんでした.そこで,まずは参考もかねて,第69回宇宙科学技術連合講演会(うかれん)にて,他の学生のポスター発表を見学に行きました.うかれんは規模が大きく,会場には多くのポスターが掲示されており,構成や表現の点で参考になるものが数多くありました.特に,北海道開催であったことから北大の知人のポスターを見ることができ,その後のポスター作成において大きな参考となりました.
 そして,とりあえずポスターを作成してみようと,学会前の2,3週間ほど前から作り始めました.ポスターはできる限り文章量を減らした方がよいため,手法の説明などでてこずりながら苦難に苦難を重ねながら,なんとか第一稿を完成させました.そこで,先生や先輩方に確認をしてもらったところ,まだまだ粗いことが再確認され,大幅な直しを決行することとなりました.学会までの時間も迫る中,できるだけ推敲を重ねていき,印刷しなければいけない日までに,なんとか発表用のポスターを完成させることができました.しかし,ポスター発表ではポスターの完成だけでなく,口頭での説明練習も重要であるため,短時間で要点を伝えられるよう,学会当日まで練習を行いました.

ポスター発表
 
発表は福岡県柳川市の柳川市民文化会館にて行われました.私はALSS学生ポスターセッションという枠の中で,数理最適化を用いた超小型衛星NinjaSatの実測GNSSデータに基づく超低軌道の大気密度推定についてポスター発表を行いました.
 本学会には博士課程の先輩と二人で参加しました.会場は空港から1時間程度かかる場所にあり移動はやや大変でしたが,前日から当日まで先輩にサポートしていただき,無事に発表を行うことができました.
 今回のポスター発表は,部屋の一室に十数枚のポスターが張られて,ポスターの脇に立って発表を行うという形式でした.この発表のコアタイムは1時間ほどであり,その時間内にて発表および審査が主に行われました.発表のコアタイムが始まると,審査員っぽい人,口頭発表をしていた学生,企業関係者など,さまざまな立場の方と研究について議論することができ,とても有意義な時間となりました.

今回の学会の開催地である水郷の町,柳川市

ポスター賞受賞!
 後日,ポスター発表における最優秀ポスター賞の受賞連絡をいただきました.この成果は,ポスター作成や発表準備においてご指導いただいた先生や研究室の先輩方,さらにOBの方々のご協力によるものです.この場を借りて感謝申し上げます.今後も研究に真摯に取り組んでいきたいと考えています.

N. Hosaka

2025/07/22

ドイツ研究滞在記その2と国際学会での発表(FAR2025, ISFV21)

2025年 3月から6月の間,またまたドイツ航空宇宙センター(DLR)に研究のために滞在してきました.2年連続2回目の出場です.

DLRでは昨年同様に,プラズマを生成できるアーク風洞を使った通信ブラックアウトの再現とガス噴射による低減効果の実証を目的とした実験を実施しました.昨年トライしたところなかなか面白い結果が見られたので,再現性の確認や計測の高精度化などを行いました.

例によって実験に関する写真は載せられないので,観光日記みたいになってしまいますがお付き合いいただければと思います.


また,ドイツ滞在の最中にフランス・アルカションで開催された国際学会FAR(https://atpi.eventsair.com/far2025/)と,帰国後すぐに東京で開催されたISFV21(https://www.isfv21.org/)にて発表してきましたので,そのことについてもここで報告します.

DLRの門の前にて,たまたま来ていたDr. Ethiraj Venkatapathy(左)と著者(右), Köln


DLRでの2回目の滞在

今回で2回目の訪問で,DLRの方々と久しぶりに会えて懐かしく思いました.遠い異国にも友達がいるってなんだか不思議ですね.

ドイツは北海道よりも緯度が高いので夏は日中時間が長く,朝方の健康的な生活を送ることができました.滞在地はDLRのあるケルンまでトラム,S-Bahn,バスを乗り継いで80分くらいの場所にあるBergisch GladbachはLusthideというところにしました.昨年滞在したBonnに比べて田舎街で,森の中の閑静な住宅街といった感じの場所です.

Lusthide駅と路面電車1番.朝夕は10分に1本来るので街中までの移動に便利.


さてアーク風洞での実験について,いろんなトラブルがあったり途中で学会発表があったりと忙しなかったですが,なんとか期間内にやり切ることができました.実験の手順や装置なんかは昨年と同様なのですが,同等の通信環境を繰り返し再現し,安定的な低減効果を観測することは一筋縄ではいきませんでした.滞在最後の2週間は毎日実験で,課題の発見と改善を繰り返していたらあっという間でした.最終日は取れたてホヤホヤのデータをDLRの方々とNASA AmesのDr. Rajさんの前で発表しました.Rajさんの質問が鋭く,毎回 I'm not an expert but,...から始まっていたので変な汗かきながらDefenseしてました.


1318年創業のBrauhaus Sion(https://www.brauhaus-sion.de/en/)でいただいた,Kölschというケルン地方のビール.冷たくて日本のものより飲みやすい.下のコースターを被せるまで注がれるわんこそば形式.

国際学会その1:FAR2025

5月18-22日に行われた宇宙輸送と再突入ミッションに関する学会FARに参加して発表しました.FARはESA,DLR,CNESといったヨーロッパ中の宇宙機関がスポンサーになっているお金持ち学会で,毎年どこかのビーチサイドで実施されています.3回目の今回はフランス西海岸にあるArcachonという砂丘が有名な街で行われました.体感として,アカデミックな発表とプロジェクト関連の発表が半々くらいの割合でありました.

発表内容は昨年の滞在時に実施した通信ブラックアウトとガス噴射によるその低減実験についてでした.対面形式で国際学会に参加するのは初の経験で,同世代の学生や著名な研究者の方々とフランクにお話できる機会はとても貴重で楽しかったです.いつも論文ばかり読んでいると分からなくなりますが,それを書いている人がいるんだなあと当たり前のことに気付かされました.


発表する著者.300人くらい入るホールのステージで,DLRとの共同研究の成果について発表.気流条件が異なる2種類のプラズマについての説明をしているところ.


Arcachonの砂丘と鳥とパラグライダー.強風が常に吹いており,美しい風紋が見られます.


国際学会その2:ISFV21

帰国の次の日から東京で行われた可視化に関する学会ISFV21に参加して発表しました.ISFVは隔年で開催されている学会で,流体の可視化技術やその後処理などについての発表が多くありました.最近BOSが流行っているみたい.次回の開催地はマドリードだそうです.

発表内容はJAXAのアーク風洞で実施したシュリーレン可視化の試みについてです.分光計測を組み合わせることによって,それまで困難とされてきたアーク風洞の低圧環境下における可視化に成功したことを報告しました.この時の実験の内容は過去にこのブログにも記載しています(https://highenth.blogspot.com/2023/12/isas-5.html).

シュリーレン可視化結果について説明する著者.日本人の質問者と英語でやり取りするのはなんかむずむずしますね.

最終日に行った銭湯にて.日本帰ってきた実感が湧いてきた一杯でした.


おわりに

今回は3月から6月にかけてのDLR滞在と国際学会での2件の発表についてのよしなしごとを書き綴りました.海外渡航は機会も限られるしお金もかかるものですが,その中で築けたコミュニティはとても貴重なものですし,同じように考えている人たちの存在は自信にも繋がりました.何事にも言えるかと思いますが,えいやっと行ってみると案外なんとかなるものだと思います(n=1の生存性バイアスと言われればそれまでですが).特に,大学院にて海外渡航してみたいという方の参考となれば幸いです.

2025/06/13

気球実験:RERA-5

REERA-5

例年、ゴム気球を用いた薄殻型カプセルの自由飛行試験RERA (Rubber balloon experiment for reentry capsule with thin-type aeroshell) を行っています。

今回の試験では、「カプセルの振動過渡期のデータ取得」を目指して、カプセルの重心を後方に設置し、より不安定化しやすい条件下で試験を行いました。今年度は2025/6/12にRERA-5を高度25kmから投下しました。

JAXA/ISASホームページでの紹介:https://www.isas.jaxa.jp/topics/004027.html

気球実験

カプセルを自由飛行させ、そのときの姿勢データを取得する試験になりますが、カプセルは人にあたらないように海に落下させる必要があります。そのため、陸から海への風が作られる早朝(5,6時)に実験が行われます。

実験の流れとしては、下記になります。
  1. 地上で動作確認
  2. 気球で高度25kmへ
  3. 切り離して、自由飛行
  4. 着水
2以降は問題があってもほとんど何も対応できません(早急に落下させて機器が正常な内になるべくデータを得るくらい)。
そのため、2〜4にかかる2時間くらいはずっと心配しながら見守っています。こればかりは慣れません。
RERA-5カプセル(重心位置を後方に設置するため、例年より後ろの筒が長いんです…)


今回の試験では、カプセルは目論見通り回転し二点良いデータが取れました。
  • 切り離しと同時に回転するのではなく、初めの1分くらいは振動しており、ある瞬間から振動の発散に向かう過渡期データを取得できた。
  • 一度発散した後は着水まで回転が維持されていたが、その回転周期は変化していた。

詳細は学会発表等になりますが、個人的には新たな研究アイデアに繋がる良いデータが取れたと思っています。とりあえずは2025年度の宇宙科学連合で後輩君が発表してくれる予定です。

大規模な実験は準備が大変で責任も降ってきますが、その分成功したあとの快感もひとしおです。チャンスがあればぜひ!
送信されてきた姿勢データを確認するためのQuick Look画面におけるカプセル姿勢の一例(完全に回転してますね)

その他

一日の作業を終えた後は当然ながら自由です。
花火をしても良いし、公園でブランコを漕いでも大丈夫です。
四つ葉を見つけてもいいですし、野生の鹿と出会っても大丈夫です。
……たぶん。



H. Takasawa (ISAS/JAXA), 2025/06/13

2025/06/09

2025年度の気球実験:RERA-5&RERA-MAW-1

小型成層圏気球投下による剛体・柔軟エアロシェルの自由飛行実験

当研究室において2022年より継続して行っている気球実験 RERA を今年も行います。 今回は1回の実験キャンペーン中に、実験機の特性が異なる2つの自由飛行実験を目指しています。それは空気力を受けても自身の形状が変化しない「硬い(剛体)エアロシェル」と、空気力を受けたときに形状が変化する「柔らかい(柔軟)エアロシェル」です。

低弾道係数型の空力減速技術

宇宙輸送工学の大気突入分野、つまり宇宙から帰って来る方の輸送技術、において近年のトレンドのひとつは、軽量で大面積のエアロシェルを用いた低弾道係数型空力減速技術であると言えます。軽量で大きな面積、ということは面積の分だけ空気力を増加させ、しかも自身も軽いので、高い空気力によって効率的に大気突入速度を減じることが可能です。このような効果は軌道力学におけるテクニカルタームで、低い弾道係数、というので、低弾道係数型と修飾されます。

この低弾道係数型飛行を実現する技術が、剛体エアロシェルと柔軟エアロシェルです。いずれも薄い殻を利用することで軽量と大面積を両立させていますが、大きな違いは構成する材料と言えるかもしれません。剛体は主に金属を利用し、柔軟は織物を利用します。その違いが剛体・柔軟エアロシェルとして現れます。
RERA-5 (剛体エアロシェル実験機)
RERA-MAW-1 (柔軟エアロシェル実験機)

剛体エアロシェルと柔軟エアロシェルの空力動的姿勢不安定

このブログあるいは学会発表あるいはどこかのSNSなどで、たびたび述べているような気もしますが、航空機や宇宙機の姿勢安定は原則として空気力によってなされるのが特徴です。それ故、空気力による姿勢安定が取れない危険な事態に陥ることも度々あります。姿勢安定はそれ自体大きなトピックでもありますが、宇宙機である剛体・柔軟エアロシェルも例に漏れず姿勢の安定不安定は大きな関心ごとです。一方で、その挙動はまだわかってないことが多いのです。

剛体エアロシェルにおける姿勢不安定はどのように生じるのか、柔軟エアロシェルはどうなのか、両者の姿勢不安定における共通項と相違項は何なのか?という問いに答えることは、安全な大気突入技術の確保として重要なことになります。

RERA-5&RERA-MAW-1

剛体・柔軟エアロシェルにおける空力姿勢不安定を自由飛行環境によって再現し、そのメカニズム解明のデータ取得を試みる実験が、「ゴム気球を用いた剛体・柔軟エアロシェルの自由飛行実験(RERA-5&RERA-MAW-1)」です。RERA-5が剛体エアロシェル実験機で、これは2022年度から継続して行っている実験の五号機、RERA-MAW-1が柔軟エアロシェル実験機の一号機です。

いずれも実験シークエンスは同様で、北海道大樹町からカプセルを吊り下げたゴム気球を放球、高度25km付近の成層圏まで上昇ののちに実験機を投下し、自由飛行中の姿勢データなどを取得する内容です。
RERAの実験シークエンス

まとめ

例年のことではありますが、気球実験は気象条件や高層風などに強く影響されるため、実験機を準備したとしても必ず打ち上がるとは限りません。ただ、万全の準備を施して、良い風を待つ、というのは重要な姿勢であるような気もします。RERA-1からこれまで、幸いにして放球には至っていました。今年もそのようになれば良いと思います。

Y. Takahashi, 2025/06/09

2025/05/14

再突入実験機RAM Cを対象としたガス噴射による通信ブラックアウト低減の論文

論文の概要

本研究室で継続的に実施しているエアフィルム効果による通信ブラックアウトの低減化研究の成果が,Communication blackout and aerodynamic heating reduction via air film for hypersonic spacecraftとしてJournal of Applied Physicsから出版されました.本論文では1970年代に実施された再突入ミッション機であるRAM Cを対象に,ガス噴射によって通信ブラックアウトと空力加熱を同時に低減できる可能性について示しました.

宇宙機が大気圏に突入する際,その速度はマッハ25を超えることもあります.この超高速によって,機体の前には強い衝撃波が発生し,周囲の空気は高温になります.この高温が,宇宙機にとって重大な2つの問題を引き起こします.

  • 通信ブラックアウト:高温プラズマが電磁波を遮断し,地上との通信が途絶えてしまう現象です.再突入中の機体状態の把握や誘導に必須な通信ができなくなるのは大きな問題です.
  • 空力加熱:高温プラズマが機体表面付近に分布することで,機体が熱せられる現象です.機体や搭載機器を保護するために,熱防御システム(TPS)が必要になります.
これらの問題を同時に解決しようというアイディアが,今回の論文で検証されています.機体の表面からガスを噴射して,機体の周りに薄い「空気の膜(エアフィルム)」を作るというコンセプトです.このエアフィルムは,再突入の過酷な環境から宇宙機を守るバリアとして機能します.
  • 熱を防御:エアフィルムが断熱材のように作用し,高温プラズマ気流からの熱を伝えにくくします.
  • 通信の改善:噴射されたガスは周囲のプラズマより低温で,電子の数が少ない低プラズマ領域です.この領域を「通信用の窓」として使うことで,電波が通りやすくなる,つまり通信ブラックアウトを軽減できる可能性があります.
このガス噴射による方法は2つの課題に同時に対応できるため,特に小型の宇宙機にとって有効と考えています.
ガス噴射による空力加熱と通信ブラックアウトの同時低減のメカニズム.機体前方で発生する強い加熱とプラズマ気流を機体から遠ざけることで低減化を図ります.

これまでの研究では,プラズマ風洞実験などで低減効果が確かめられていましたが,実際の再突入環境とは条件が異なります.そこで本研究では,過去にNASAが行った実際の再突入実験機RAM C-Iを対象に詳細なシミュレーション(CFD解析)を行い,より現実的な環境での効果を調査しました.

宇宙機からのガス噴射によるエアフィルムの形成.機体上側にモヤモヤとしたガス層が,後方の広い範囲まで及んでいることがわかります.この空間内部を電磁波は通過可能であり,また機体表面の加熱率が低下している様子が見られます.

解析の結果,ガス噴射によるエアフィルム効果が,実際の再突入時の環境においても,通信ブラックアウトと空力加熱という2つの大きな問題を同時に低減できることがわかりました.特に機体側面からガスを噴射した場合,非常に顕著な効果が見られました.噴射された低温のガスが機体に沿って広がり,広範囲にエアフィルムを形成しました.

実用化には噴射するガス種やタイミングの最適化などさらなる検討が必要ですが,再突入という最も厳しい段階で機体を保護し,通信を維持できるこの技術は,今後の宇宙輸送や探査ミッションにおいて,機体の設計や運用に大きな柔軟性をもたらす可能性を秘めた解決策であると言えると思います.

あとがき

この手法の検討は2020年頃から始めて,風洞実験での効果実証からいよいよ再突入環境での有効性を示すまでに至りました.過去に出した論文がきっかけになったかはわかりませんが,ブラックアウト関連の研究成果を最近よく見るような気がします.本研究もその一助となればと願うばかりです.

論文

本論文は以下からアクセスできます.こちらはオープンアクセスなのでどなたでも読むことができます.

https://pubs.aip.org/aip/jap/article/137/17/174701/3345375/Communication-blackout-and-aerodynamic-heating

Takashi Miyashita, Yuji Sugihara, and Yusuke Takahashi, “Communication blackout and aerodynamic heating reduction via air film for hypersonic spacecraft”, Journal of Applied Physics, 7 May 2025; 137 (17): 174701. https://doi.org/10.1063/5.0250348


T.Miyashita

2024/12/24

ドイツ研究滞在記

2024年3月から7月の間,日本学術振興会の若手研究者海外挑戦プログラムの支援を受けて,ドイツ,ケルンにあるドイツ航空宇宙センター(DLR)に滞在していました.ここでは,滞在期間中のことをざっくりと書き残そうと思います.

DLRではこれまで継続的に行なってきた通信ブラックアウトのアーク風洞による再現とガス噴射による低減効果の実証実験を行っていました.DLRは世界有数の出力を誇るアーク風洞L2Kを備えていて,実験のスケールアップと様々な観測による現象理解を目的としています.実験写真が載せられないので,詳細は論文化した際にまたブログで紹介します.ここではドイツでの私生活の部分を中心に記そうと思います.

DLR内部の様子.
Hypersonic/Supersonic Department にお邪魔しました.

ドイツの研究滞在ビザの取得

日本のパスポートは最強なので普段の海外旅行では意識しませんが,海外での長期滞在にはビザを取得する必要があります.今回のケースではドイツでの滞在期間が90日以上ということで,研究ビザを取得することになりました.ドイツに入国後にも申請できるらしいのですが,日本にいて日本語でできるならそっちの方がオススメです.とはいえ,いろんな書類を用意して東京にあるドイツ大使館まで赴く必要があります(書類提出のほかに指紋のスキャンを取られました).意外と手間なので滞在期間が決まったらすぐに動き出すべきですね.

ドイツ大使館の入り口
中に入るにはパスポートが必要だったり周囲は大使館や教会がたくさんあったり,外国の雰囲気.

日本からケルンへ

今回の滞在先であるDLRは,1969年に設立したドイツの航空宇宙開発を行う政府機関です.本拠地はドイツ西部の街ケルンにあり,私はそこに4ヶ月間滞在することになりました.そこで,本ブログでも度々触れている,通信ブラックアウト低減に関する共同研究を行いました.

ケルンに到着したのは日本を出てから丸一日たったお昼ころでした.DLRでお世話になるボスや研究者のみなさんに挨拶を済ませ,その日はすぐに宿へ向かいました.この後,事故渋滞に巻き込まれ,到着したのは日付が変わってからというのはまた別のお話.


飛行機から見下ろすドイツ・ケルンの街並み

DLRでの研究滞在

DLRでの1日は朝8時半に出勤するところから始まります.9時くらいに同年代のPhD学生と一緒にコーヒーを飲み,研究活動を始めます.やるべきことは実験準備や数値解析,書類仕事,日本に置いてきたはずの諸々など,普段の研究室生活と同じような感じです.

11時半になったら昼食をみんなで社員食堂に食べに行きます.ドイツ語メニューがよく分からなかったので,いつも勘で注文していました.ドイツ食だけでなく,パスタやご飯ものなど,いろんな国の料理が日替わりで楽しめました.どんなに寒くても外の席で食べる派閥に仲間入りしてお昼を一緒に食べてました.残念ながら研究関係の写真は載せられないので,食堂のお昼メニューを紹介します.

リゾット的なのとパンのセット,炭水化物×炭水化物は世界共通.

昼食後はコーヒー休憩を挟みつつ,だいたい18時ころまで作業し,帰宅します.帰り道のスーパーで買い物をして,夜は専ら自炊をしていました.フライパンでパンを焼く時は意外とすぐに黒焦げになって煙があがって火災報知器が鳴るので注意しましょう(1敗).いくら安いからといってブルーベリーを1日に500g食べると具合が悪くなります(1敗).Asian Tasteと書いた商品はたいてい不思議な味がします,気をつけましょう(n敗).

休日の過ごし方

休日はドイツのいろんなところに観光に行ってきました.ドイツの鉄道はコロナ禍をきっかけに鉄道乗り放題パス(49ユーロチケット)が旅行者でも簡単に取得できるので,あちこち国内移動するには便利です.ドイツは畑や牧草地体も多く,気候も北海道と似ていてとても過ごしやすく感じました.旅行写真をいくつかお裾分けします.



ミュンヘンにあるドイツ博物館の流体解析に関する展示.
ドイツ語で何と書いているかは読めませんが,何が書いてあるかは分かる不思議.

デュッセルドルフの河川敷で放し飼い状態の羊とヤギ.
暑いのか木陰から出てきませんね.


ボンの気球フェスティバル.
のはずが,強風のためクレーンに吊るされて上下させられる可哀想な気球.


国境沿いのモンシャウの街並み.
山奥にある,いかにもヨーロッパ的な綺麗な建物が連なる街.

隣国ルクセンブルクにあるルクセンブルク大学(盧大?)に研究室訪問.
遠く離れた土地にいる近い分野の研究者とのお話は貴重で有意義な経験でした.


おわりに

今回のように大学の外に単身で飛び出してみる経験は研究だけでなく人生経験としても貴重だったと振り返ってしみじみ思います.実験や議論も大事ですが,同じような年齢の研究者にたくさん出会えたことが何よりの収穫でした.出発前は不安も大きかったですが,なんとかなるもんですね.迷わず行けよ,行けばわかるさとはよく言ったものです.
いろんな幸運と偶然が繋いでくれたご縁を大事に,研究成果として還元できるよう,まずは論文執筆に向けて頑張りたいと思います.それでは論文解説回へつづく...といいな.

T. Miyashita

2024/10/02

博士課程の過程(2024年度 STL研究室 卒業生)


 博士課程の卒業にあたり,「博士課程に進学するか否か迷っている方」「博士課程はどうだった?」「卒業後の進路は?」という点について,過去の自分自身が知りたそうなことを簡単に記載しておきます.


1. 博士課程に進学するか否か迷っている方へ

 「人には人の博士課程があるので,様々な人に実際に話を聞きに行くべき」

 博士進学を悩んでいるということは,研究をしたいが博士課程の不安(進路やお金等々)があるのではないでしょうか?

 修士から博士に進学した人,社会人を経験してから大学に戻ってきた人,社会人ドクター,博士は持っていないが会社で研究職についている人など,研究を続ける方法は複数あります.

 そして,それぞれの人の理由が合って研究しているはずなので,話を聞いて自分に合った方向性を探すのが良いと思います.


 自分は「研究をしたい」だったので,修士の就活時に研究職にアプローチしていました.そこがだめだったこともあり,博士課程の方で研究しようということで進学しました.「研究をしたい」を満たせたので僕としては悪い選択肢ではなかったです.


2. 博士課程はどうだった?

 楽しかった.(生存バイアス)

 JAXAの研究室にも半分所属していたおかげで,ロケット実験や気球実験の手伝い・見学に行け,さらに博士課程の間に自身の気球実験も実施できました.併せて,研究室外の先生と議論できる機会が格段に増え,自分の内側を広げられるよい機会でした.

 だからこそ,留学などもっと自分の知らない世界に飛び出せばよかったというのもあります.

 
 博士課程の大変さ(金銭面,体力面,精神面)については,ネットに落ちている情報通り,きつい面がありました.博士課程がつらいといわれるのも納得です.

 運の影響が大きい点も多々ありますが,周りのサポート(後輩くん,実験手伝ってくれてありがとう)もあって,自分は良い思い出にできたという現状です.

  

3. 博士卒業後の進路は?

 研究ができることを目指し,JAXAの方でポスドクをします.
 民間の就活ほど数は多くないですが,アカデミアのポスト(助教,ポスドク)を探して,自身の研究テーマを発展させれそうなところを選択しました.結果として受けなかったものもありますが,応募できるポストは何個かあったので,そこまで不安はありませんでした.

 ただ,アカデミアの就活時期が基本的に遅いので(8-11月),「失敗したら民間に行けばいいや」とはいかない面は覚悟する必要があります.

 自分の周りでは,これまでの伝手(共同研究先,インターン先,先生の知り合い)で一本釣りする方が多い印象です.



4. 結言

 「迷っているなら博士に行くな」というのはその通りですが,迷って悩んで考えた末に覚悟をもって博士課程に進学すれば問題ありません.

 

 僕はこの研究室を卒業しますが,良い先生方がいるので悩んでいるのであればお話をしてみてください.

 それでは,良いドクターライフを!


H. Takasawa

2024/09/25

2024/08/21

超小型衛星の実測GNSSデータに基づく機械学習を用いた地球超低軌道の大気密度推定の論文

投稿論文 ”Atmospheric density estimation in very low Earth orbit based on nanosatellite measurement data using machine learning” が Aerospace science and technology にアクセプトされました.本論文では,超小型衛星が地球超低軌道(高度100—400 km)にて取得したGNSS測位データから,軌道解析と機械学習を用いて大気密度を推定する手法を構築しました.また実際にフライトした超小型衛星EGGのデータに手法を適用し,EGGの経験した大気密度の推定を行いました. 


論文の概要

地球超低軌道は今後の人工衛星ミッションにおけるフロンティアです.従来地球を観測する人工衛星が運用されてきたのは高度500 km—数万km の領域です.ISS(国際宇宙ステーション)が滞在する高度400 kmより低高度の,地球超低軌道を利用できれば,観測の高精度化などが期待できます.人工衛星の誘導制御,寿命予測のためには,大気密度が正確にわかる必要がありますが,この高度帯における観測データが限られており,既存の大気モデルでは大気密度の正確な予測,再現ができていません.本研究ではこの領域における新たな大気密度推定手法として EGGという超小型衛星が実測した間欠的なGNSS測位データから機械学習的なアプローチにより大気密度を推定する手法を構築しました.

図1に手法の概念図を示しています.本手法ではまず,超小型衛星の取得した間欠的なGNSSデータからガウス過程回帰により軌道の再構築を行います.その軌道(以下,再構築軌道)を軌道解析により再現する過程で、大気モデル(NRLMSISE-00)により計算した大気密度を補正します.軌道解析の入力のうち,間欠的なGNSSデータからは求まらない速度ベクトルと,推定対象である大気密度の補正係数を,パラメータ探索手法であるベイズ最適化とグリッドサーチにより様々に試行し,再構築軌道を再現できる値の組を求めます.ベイズ最適化によりざっくりと最適と思われる値を求め,グリッドサーチによりその周辺をより詳細に,網羅的に試行します.

図 1 大気密度推定手法の概念図 [1]

構築した手法をEGGの実測データに適用した結果を図2に示しています.これはEGGのGNSSデータのうち,高度250—220 km のものを対象に軌道再構築をし,軌道解析の入力のグリッドサーチを行った結果です.横軸の値が大気モデルの補正係数であり,モデルの値を何倍にして軌道解析で用いたかを表しています.縦軸は再構築軌道からのズレの時間平均を表しています.補正係数=0.5のとき軌道のズレが最小になっていることから,EGGがこの高度帯で経験した大気密度は,大気モデルの値のおよそ半分だったのではないか,という推定結果が得られました.

図 2 高度250—220 kmの再構築軌道に対するグリッドサーチの結果 [1]


あとがき
この論文は私にとって最初のジャーナル論文です.様々な困難がありましたが,出版まで漕ぎつけることができ,大変うれしく思っております.指導教員である高橋先生から日頃よりご指導いただき,研究室の先生方,先輩方,JAXAや他大学の先生方にもお支えいただきました.感謝申し上げます.


シェアリンク経由ですと,2024/9/17まではどなたでも無料でダウンロードいただけます!

  1. T. Sakai and Y. Takahashi, “Atmospheric density estimation in very low Earth orbit based on nanosatellite measurement data using machine learning”, Aerospace Science and Technology, Volume 153, 2024.

Share link (9/17まで有効): https://authors.elsevier.com/a/1jVxn4W%7EzJG95q
Link: https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1270963824005492


T.Sakai 2024/08/21

2024/07/23

RERA-4実験報告

 RERA-4

当研究室では2022年度から毎年、ゴム気球を用いた新型大気圏突入カプセルの飛行試験: RERA(Rubber balloon experiment for reentry capsule with thin-type aeroshell)のシリーズを実施しています。質量特性の異なるカプセルを高度25㎞から投下して自由飛行中の姿勢挙動を取得して姿勢不安定現象の解明を目指すものです。詳しくはこちらをご覧ください。今年度は7/43年目4機目となるRERA-4 を放球しました。

 

JAXA/ISASホームページでの紹介:https://www.isas.jaxa.jp/topics/003780.html


 気球実験

実験は北海道大樹町の大樹航空宇宙実験場で実施しました。放球は朝に行われます。朝2時にホテルを出発して作業を開始し、動作確認等を完了した後に放球という流れです。放球後はやれることは何もないので送られてくる機体のデータを見守り続けます。

大きな問題も発生せずカプセルは予定高度まで達して切り離しが行われ、放球から約2時間に無事に着水しました。有用なデータが取得できましたので今後詳しい解析を進めていきたいと思います。

 

朝日に照らされるRERA-4カプセル(左)と上昇中の様子(右)

その他

空いた時間に襟裳岬に行きました。襟裳岬は日本最大のゼニガタアザラシの生息地として有名です。昨年行った時は霧がひどくアザラシを見ることは叶いませんでしたが、今年は遠くに3頭ほど見ることができました。かわいい。

襟裳岬

T.Yoshio

2024/06/30

ゴム気球を用いた新型大気圏突入カプセルの飛行試験: RERA-4

RERA2024

今年度も2022年度RERA-12023年度のRERA-2,-3に引き続きゴム気球を用いた新型大気圏突入カプセルの飛行試験: RERA-4(Rubber balloon Experiment for Reentry capsule with thin-type Aeroshell)を予定しています。直径80㎝のフルスケールのカプセルを高度25㎞から投下し、自由飛行中の姿勢挙動を取得します。今までのフライト実験では重心位置・慣性モーメントをそれぞれ変更した機体で実験を行いましたが、結果はどれも安定的な飛行でした。今回のRERA-4では重心位置をさらに大きく後ろにすることで動的な不安定現象を再現することを狙っています。 

RERA-3放球時

機体設計

カプセルの機体設計では重心位置が姿勢の不安定化に対して重要なパラメータの1つになっています。基本的に重心位置が後方にあると不安定化しやすく、今回のRERA-4では不安定現象の再現のために重心位置をRERA-1,-2,-3よりも後方に位置させます。設計の目標重心位置は遷音速風洞試験や落下試験の結果を受けて決定しました。図を見ていただくとRERA-4RERA-2と比べて円筒部が長くなっているのがわかると思います。円筒部を長くし搭載機器を後ろにずらすことで重心位置を下げています。

RERA-2(左)とRERA-4(右)

神頼み

実験準備のために456月は相模原の宇宙科学研究所に来ていました。機体の製作と各種試験を実施し、無事に出来上がった実験機の発送を完了しました。ここまで来たらできることは祈ることのみで、宇宙科学研究所の近くの神社と北大近くの神社の2か所に成功祈願のお参りに行ってきました。今年こそ無事にくるくると不安定化してほしいです。

宇宙科学研究所近くの新田稲荷神社(左)と北大近くの札幌諏訪神社(右)


T. Yoshio, 2024/06/30





2024/06/04

機械学会若手優秀講演フェロー賞を受賞しました

 2023年9月に行われた日本機会学会年次大会にて,「ISAS 1MW アーク加熱風洞でのガス噴射による通信ブラックアウト低減化研究」というタイトルで発表しました.その発表が評価されまして,このたび「機械学会若手優秀講演フェロー賞(宇宙工学部門)」をいただきました.

機械学会年次大会での発表
 
2023年の学会は,東京都立大学南大沢キャンパスで開催されました.富山大学で開催された2022年の年次大会に続いて2年連続2回目の参加でした.今回の発表内容はISAS アーク風洞での実験と数値解析を合わせたもので,風洞内部でのシュリーレン撮影に成功したことを報告しました.
 学会では何度も参加するうちに顔なじみの先生方とお会いするようになり,発表の前後に楽しいお話ができました.これが対面開催の学会の醍醐味ですよね.研究や発表内容に関することだけでなく,人とのつながりも深まる場として,充実した時間を過ごすことができました.

そして受賞!
 発表からおよそ1ヶ月後に,こちらの賞の受賞の連絡をいただきました.この賞は若手研究者を対象としたもので,その年の機械学会関連の学会において優れた発表をした人に送られます.後日いただいた賞状や受賞楯には次のような立派な文言がありました.
 「あなたの上記講演は 内容が有益で新規性があり また発表の態度に優れ 若手研究者として将来の発展が期待されますので(以下略)」
 このように評価していただけるのは光栄で,恐縮するばかりです.フェロー賞という名前や,「将来の発展が期待される」という言葉が印象的で,宇宙工学部門の研究者の末席に仲間入りできたのかなと感じています.
 この受賞は,私一人では成し得なかったことです.研究を支えてくれた研究室メンバーやご指導いただいた先生方に心から感謝しています.みなさんのサポートがあってこその成果と感じています.この受賞を励みに,さらなる成果を目指してまいりますので,どうぞよろしくお願いいたします.

T. Miyashita

2024/06/01

1軸自由振動の新たなモデリング手法の提案 in Mechanical Engineering Journal

 投稿論文Dynamic instability modeling on phase plane for thin aeroshell capsule with pitching motion at transonic speedMechanical Engineering Journalにアクセプトされました.本論文では, Ma1.3の遷音速流れ場における1軸自由振動時の薄殻エアロシェル型カプセルの挙動について評価しています.また,薄殻エアロシェル型カプセルにおける運動挙動に対し新たなモデリング手法を提案しています.

 

Abstract

 将来的により遠方の土星圏を対象としたサンプルリターンが計画されており,そのカプセルとして薄殻エアロシェル型カプセルが提案されています.本カプセルの動的な挙動に着目するためにJAXA/ISASの遷音速風洞を用いて1軸自由振動試験が実施されました.また,慣性モーメントがどのような影響を及ぼすかについて評価しました.



遷音速風洞における1軸自由振動時の瞬時シュリーレン画像 [1]

 Ma1.3の遷音速域においては,一定の振幅で振動を続けるリミットサイクル現象が確認されました.また,慣性モーメントによりリミットサイクル時の振幅が変化しました.この慣性モーメントの影響を予測するために,振動履歴をモデリングしていきます.ここでは横軸迎角,縦軸角速度の相平面を描き,各加速度履歴を色分けしプロットします.

相平面プロット結果の一例 [1]

履歴としては円を描くように振動しますが,ここでは縦にプロットが並ぶ加速度履歴を再現するようにモデリングしました.これにより振動の成長期も含むモデリングが可能となります.この新たなモデルはある一つの結果から別の慣性モーメントの結果を定性的に予測することができました.また,相平面履歴からはやぶさ型カプセルと異なる運動メカニズムである可能性が示唆されました.

新たなモデルを用いた予測結果 [1]

 

新たなモデリング手法に至った経緯

 1軸の回転運動方程式は,二階微分方程式となります.これら方程式の係数が定数ではなく変数となります.ここで,そもそも二階微分方程式は現状どこまで一般化されているのか,どのような評価手法により二階微分方程式の特徴が考察されているかなど,物理よりも数学の分野に足を踏み入れたおかげで新しいモデリング手法を考えることができました.実際に実験結果と予測結果が定性的に一致したときは脳内麻薬がすごかったです.ありがとうございます.

 本論文のURLは下記の通りです.オープンアクセスです.

https://www.jstage.jst.go.jp/article/mej/advpub/0/advpub_24-00053/_article/-char/en

[1] Takasawa, H., Fujii, T., Hirata, K., et al., Dynamic instability modeling on phase plane for thin aeroshell capsule with pitching motion at transonic speed, Mechanical Engineering Journal, Article ID 24-00053, Advance online publication May 31, 2024, Online ISSN 2187-9745.

 

H. Takasawa

2024/06/01

 

2024/05/23

エアフィルム効果によるブラックアウト低減実験の論文

以前からこちらのブログでも紹介していた,エアフィルム効果による通信ブラックアウトの低減に関する実験(リンク:https://highenth.blogspot.com/2023/12/isas-5.html )の成果が, Mitigation of Reentry Blackout via Gas Injection in Arc-heated Facility としてJournal of Physics D: Applied Physicsにアクセプトされました.本論文では,ガス噴射による通信ブラックアウト低減効果について,数値解析と風洞実験を活用して議論しています.

論文の概要

通信ブラックアウトは大気圏に突入する際に,カプセルと地上局との通信が途絶する現象のことで,カプセルの観測データや位置情報が一時的にモニターできなくなります.これは高速で飛行するカプセル前方に生じる強い衝撃波によって生成したプラズマによって通信電磁波が減衰・遮蔽されることによって生じます.通信ブラックアウトを低減することは宇宙輸送技術の安全性や宇宙環境利用ミッションの柔軟性向上の観点から重要です.
  大気圏再突入時に生じる別の課題として,空力加熱現象があります.衝撃波によって高温になった周辺気体のため宇宙機が加熱され,内部の機器や採取したサンプルに深刻なダメージが及ぶ恐れがあります.

図 1:大気突入時の宇宙機に生じる通信ブラックアウト現象 [1]

  ここで対象としているガス噴射によるエアフィルムの形成という手法は,この2つの課題に同時に対処できる可能性があります.噴射したガスが宇宙機の表面に薄く広く分布することで,その内部が電磁波の伝播経路の役割を果たし,通信を可能にします.また,高温プラズマガスと宇宙機との間で断熱層として作用し,機体への熱の侵入を防ぎます.
  本論文では,おもに通信ブラックアウト低減効果について風洞実験と数値解析によって示しています.アーク加熱風洞内部で行なった通信試験および対応する数値解析により,噴射したガスがエアフィルム層を形成すること,その内部はプラズマが少なく電磁波が伝播できること,実際にガス噴射によって通信が改善されることが明らかになりました.数値解析によって加熱率の低減効果も示唆されたため,今後は空力加熱への対策としても研究を展開するのも面白いかもしれません.

図 2:ガス噴射による低プラズマ領域の形成 [1]
あとがき
 今回で私が論文を出版したのは2回目です.数値解析だけの1回目と違って今回は実験結果も含まれるので,この低減手法に関する議論を深化させることができたかと思います.実験と数値解析は研究の両輪であり,組み合わせることで説得力のある研究となるのだと感じました.両方やる分たくさん失敗もしましたが,学ぶことも多くありました.

論文

 本論文は以下から確認できます.

  1. T. Miyashita, Y. Sugihara, Y. Takahashi, Y. Nagata, and H. Kihara, “Mitigation of reentry blackout via gas injection in arc-heating facility”, Journal of Physics D: Applied Physics, 2024. https://iopscience.iop.org/article/10.1088/1361-6463/ad4718#sidr-main

T. Miyashita



2024/05/17

オープンCAEシンポジウム2023優秀学生講演賞受賞報告

こんにちは.修士2年の酒井智基です.
昨年(2023年)の12月7~9日に横浜にて開催されたオープンCAEシンポジウム2023に参加し,優秀学生発表として表彰いただきました.遅ればせながら,学会の参加&受賞報告をいたします.

・12/6 前日入り
オープンCAEシンポジウムは12/7に講習会,12/8,9にシンポジウムという日程でした.今回研究室からは私と計算流体B4の中道君で参加し,前日入りして中華街に行きました.会場と宿泊しているホテルの近所にあり,夕飯はこちらで食べました.

強そうな4人組
担々麵とチャーハンのセットがあったら,選ばないわけにはいきません.
大変おいしゅうございました.

・12/7 講習会
いくつか講座の選択肢があり,私と中道君はOpenModelica,PyVista,OpenRadiossに関する講座を受けました.日頃使っているシミュレーションプログラムとは全く違うものでしたが,条件設定スクリプトの書き方,OSSならではの利用の難しさなど,様々な知見を得ることができ,良い経験になったと思います.中道君の方が僕よりも何倍もプログラム等に詳しいので,隣でよく助けてもらいました.
ありがとう,中道君.

・12/8 シンポジウム1日目
シンポジウム初日は中道君の発表がありました.初めての学会発表とは思えないほど堂々と発表していて,感銘を受けました.(私の初発表の時はガチガチでした.)
発表する中道君

夕飯は発表お疲れ様会ということで,二人で 焼肉に行きました.お疲れ様,中道君.
これは牛タンです.開かずに焼くというのを初めて知りました.
大変おいしゅうございました.

・12/9 シンポジウム2日目
この日は私の発表がありました.4度目の学会発表でしたので流石に緊張せず,いつも通りにできたのではないかと思います.私の研究は最適化に関するものですが,同様に最適化に取り組んでいらっしゃる先生方から質問コメントをいただき,大変ありがたかったです.
撮影ありがとう,中道君.

シンポジウムの最後の表彰式にて,学生優秀発表として表彰していただきました.日ごろご指導いただいている高橋先生,先輩方のおかげです.感謝いたします.
大学で高橋先生にとっていただいた写真です.
寝起きだったので顔はご勘弁ください.

・最後に
オープンCAEシンポジウムはとても懐の広い学会でした.大学の先生方のみならず、様々なバックグラウンドをもつ方々が自由にシミュレーション結果を発表されていて,とても和気あいあいとしていました.このような場で発表できたこと,表彰いただいたことを大変うれしく思っております.

RERA-MAW-2 相模原滞在記(6/15-19)

RERA-MAW-2 毎年、ゴム気球を用いた薄殻型カプセルの自由飛行試験RERA (Rubber balloon experiment for reentry capsule with thin-type aeroshell) を行っています。今回の試験RERA-MAW-2では、...